公開日 2013年10月18日
更新日 2018年12月12日
Q11:福島第一原発で高濃度の放射性物質を含む地下水が大量に海に流れているそうですが、付近の環境や太平洋で捕れる魚等に影響はないのですか。
回答
結論から言いますと、現在、漏洩している汚染水が海洋に流れ出ても、少なくとも沖合海域ではそれによる漁業への影響はないと考えられます。以下で順に説明します。
原子力規制委員会は、平成25年8月19日までの約1ケ月半に汚染水貯留タンクから1日に300トンの汚染水漏れがあったと、8月20日に発表しており、その後、汚染水の漏洩は増えていると報道されています。
事故後、損壊した原子炉を冷却するために、毎日約400トンの水が建屋に注入されていますが、問題は、もともとこの原発敷地は沢であったので、施設の下を1日当り約1000トンの地下水が流れていることにあります。そこで、建屋の地下水を毎日800トン汲み上げ、半分は処理して原子炉の冷却のために再利用し、残りをタンクに貯蔵しているわけですが、それ以外は海に流れ出ていると考えられます。
9月に入り、台風等による降雨で地下水が大量に増え、それが漏水を起こした貯留タンク周辺にも流れ込んでいるようで、このことが漏水汚染水の管理を一層難しくしているようです。
汚染水の大半は、除去装置によってセシウムが除去されているので、汚染は※ストロンチウムと※トリチウムによるものです。ストロンチウム除去装置は、現在設置が進められているところですが、トリチウムは除去できないので濃縮によって容積を減らすしか対策がなく、このように大量の水のトリチウムを濃縮することは、現実的に無理です。
ストロンチウム90とトリチウムが出すのはベータ線だけでガンマ線を出しませんので、少し離れれば空間線量には影響しませんが、海に流れたストロンチウム90は、魚介類をとおして体内に取り込まれると、被ばくすることになります。トリチウムは、水素の同位元素ですから単独で取り入れられることはなく、水の一成分(トリチウム水)として体内に取り込まれます。普通の水と比べると、その量は極めて少なく、また水の代謝は速いので、魚に蓄積することはほとんど無く、しかも影響もストロンチウムの約1000分の1ですので、問題ないと考えられます。
いずれも、放射能の影響の程度はその量によって変わりますが、現時点では、汚染水による海洋の放射能汚染の広がりは見られていないようですから、敷地外の環境に影響を与えたり、太平洋で捕れる魚等に影響はないと考えられます。
また、気象研究所の青山道夫主任研究官は、9月18日にウィーンで開かれた国際原子力機関の科学フォーラムで次のように報告しています。
事故後の2011年3月26日から同年4月7日までの約2週間に、1日当り約100兆ベクレルのセシウム137が出ていたが、その後は徐々に減り、2012年初めごろからは福島第一原発の北側放水口から放出されているセシウム137とストロンチウム90は、合計で1日に約600億ベクレルである。600億ベクレルの放射能は大量の水と共に放出されているので、これを濃度で表わすと1リットル当たり約1ベクレルとなり、これは通常運転時のストロンチウム90の法定放出基準(30ベクレル)以下である。
このような研究結果とこれまでの調査から、現在、漏洩している汚染水が海洋に流れ出ても、沖合海域では大量の海水で薄められるため、漁業への影響はないと言えそうです。元々自然界には微量の放射性物質が存在しており、全ての生物はその中で生きてきたのですから、過剰な心配は必要ないと思われます。
しかし、漏水が続けば、今後、海に流れ出た汚染水が限定水域の外に拡散し、汚染が広がることが懸念されるので、原子力規制委員会は、海底の汚染状況を広く面的に把握するために、福島県沖の約1000平方キロで海底のセシウム137濃度の調査を始めました。 平成26年2月ごろまでには測定が終るようですから、平成26年春には汚染状況が明らかになると思われます。
なお、福島県では福島沖や沿岸の魚に含まれる放射能を定期的に調査しており、安全が確認されるまで出荷されることはありませんので、魚から被ばくすることは考えられません。
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【回答者】会津若松市放射線管理アドバイザー・藤田保健衛生大学客員教授 下 道國先生
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